「気持ちの持ち方次第」:39歳のアダム・ウェインライトがMLBの完投数トップでいられる理由

Written By Ryan Fagan
adam-wainwright-051121-ftr-getty.jpg
(Getty Images)

今シーズンここまで、メジャーリーグでは全体で571人の投手が最低でも1イニング以上を投げた。5月11日時点で39歳と253日になったアダム・ウェインライト(セントルイス・カージナルズ)はそのうちの569人の若者たちより年上である。ウェインライトはクリーブランド・インディアンスの救援投手オリバー・ペレスより15日若く、タンパベイ・レイズの先発投手リッチ・ヒルよりはおよそ1歳若い。

そして2021年シーズンここまでに最低でも20イニング以上を投げた投手は149人。ウェインライトは速球の平均速度が時速89.6マイル(約144.2キロ)で、これはその149人のうち136番目タイである(『FanGraphs』のデータより)。MLB全投手と比較しても、ウェインライトの球速は下から6%以内に含まれる(『Baseball Savant』のデータより)。

そこで、短縮された2020シーズン開幕から現在までの完投数に目を転じてみよう。ウェインライトはその間17回先発登板し、3試合で完投している。この数字はフィラデルフィア・フィリーズのエースであるアーロン・ノラとロサンゼルス・ドジャースの絶対エースであるトレバー・バウアーと並ぶ、メジャーリーグでトップの記録なのである。

ピッチングへの新たなアプローチが隆盛を極める現在において、ウェインライトは見落とされがちだが、非常に価値の高い分野で野球界をリードしている。

4月26日(日本時間27日)のフィラデルフィア・フィリーズ戦で完投したものの負け投手になったウェインライトは試合後に米スポーティング・ニュースとのZoomインタビューに臨み、「僕はトシだからね。考え方も古いのさ」と言った。ウェインライトはさらにこう続けた。

「5イニングか6イニングを投げただけでは仕事を終えたとは言えないよ。それはあくまで僕の考えだけどね。先発投手は最低でも7イニングは投げるのが仕事だと思う。6イニングで降板したときは、その内容がどれだけ良くても嬉しくは思わないよ。完投して試合を終えたときこそ、自分は仕事をしたと思えるのさ」

もちろん、今は2021年である。昨年からダブルヘッダーで7イニング制が導入されたこともあって、すべての完投試合を同じように扱うことはできない。その中にはマディソン・バムガーナーの非公認ノーヒッターも含まれる。

ウェインライトは完投した 3試合で25イニングを投げた(9,9,7)。バウアーは22イニング(7,7,8)であるし、ノラは22イニング(9,7,6)である。これらの数字はもちろんバウアーとノラの価値を減ずるものではない。彼らは試合のルールで許される最大イニング数を投げたのだから。ただ、一言で完投試合とは言っても、そこにはおのずから差異が生じるということを指摘したいだけだ。

別の角度から見てみよう。過去2シーズンにおいて、延べ26人の投手が1試合で9イニング以上を投げた。それを2回行ったのは2人しかいない。ウェインライトとカージナルズの元チームメイトであるランス・リンである。

ウェインライトは「最終回にマウンドに登って、最後の3人をアウトにとって試合を終わらせることは、今でも僕がピッチングでもっとも好きなことなのさ」と口にした。

5月9日(同10日)のコロラド・ロッキーズ戦で、ウェインライトは過去17回の先発登板で3回目の9イニング完投(全体では4回目)にあとアウト2つに迫っていた。99球目でトレバー・ストーリーを三振に切って取ったときには叫び声をあげたが、続くライアン・マクマホンにカーブを狙い打たれて単打を許し、さらにチャーリー・ブラックモンには四球を与えた。マイク・シルト監督はここでウェインライトを投球数113球で降板させ、試合はライアン・ヘスリーが完封リレーで締めくくった。

完投試合は近年ではとても珍しいものになっている。先発投手の多くは空振りを狙い、三振数を増やし、すべての投球に全力を注ぐようになっている。2000年以降、1シーズンに10試合以上の完投を達成した投手は1人しかいない(2010年のジェームス・シールズ、11試合)。そして2010年から通算で20試合以上の完投を記録した投手は3人だけである。ウェインライト(22試合)、クレイトン・カーショウ(25試合)、そしてジャスティン・バーランダー(20試合)だ。

近年、ピッチングに関する理論が大きく変化しているのだ。メジャーリーグの歴史を紐解くと、シーズンで10以上の完投試合を10シーズン以上達成した投手が97人もいる。2015人のジョニー・クエトが5試合を完投して以来、ナショナル・リーグではシーズンで3試合以上を完投した投手はいない。

1986年、フェルナンド・バレンズエラは20試合に完投し、ナショナル・リーグでトップだった。その前年にはバート・ブライレブンが24完投試合でアメリカン・リーグのトップだった。今後はよほどの劇的な変化が起こらない限り(たとえば、ダブルヘッダーを5イニング制にするとか、通常の試合を7イニング制にするような変化だ)、1シーズン20完投試合を狙える投手は2度と出てこないだろう。

皮肉なことに、完投するということは、かつてよりはるかに投手陣への貢献度が高くなっている。先発投手の多くが5イニングか6イニングしか投げなくなった結果、救援投手陣の負担は増すばかりだからだ。丸1日の休息日はどの投手にとっても大きな利益になる。

しかし、それが目標とはされていない。投手たちが全力で投げて、内野ゴロより三振を狙うのは、何も新しいトレンドというだけではない。監督やコーチ陣、はてはフロントオフィスまでもが投手たちにそれを望み、1試合で投げる投球数が少なくなることは容認しているのだ。

ウェインライトはこの新しいアプローチに惑わされてはいない。

ウェインライトは自分が得意とするころをよく知り、それをもっとも効果的につかう術を心得ている。そしてそこから離れようとはしない。

「メジャーリーグでアウトを取る方法は無限にある。ただ力いっぱい投げるだけがすべてではない。僕がやっているのはそういうことさ」

賢く投げること。それこそがウェインライトにとって有効な投球術だ。

「気持ちの持ち方次第なのだよ。マッド・ドッグ(コーチであるマイク・マダックス氏の愛称)がいつも言っていることだけど、すべては選択肢なのさ。初球ストライクもその選択肢の1つ。できるだけ多くの場面でカウントを1ストライク0ボールから2ストライク0ボールへと進める。それこそがピッチングだ。その鍵はコントロールにある。コントロールが良ければ、有利なカウントを支配できる。現在のメジャーで活躍している投手たちは皆がそうだ。今日のザック・ウィーラーがそうだったし、カーショウ、シャーザー、デグロムのようなスーパースターはいつも有利なカウントで打者に対して優位に立っている。アウトを取るための秘訣なんてものはない。ただ自分にとって有利な立場を作ることだ。そしてそれこそがマウンド上に長く留まるための方法なのさ」

前述したフィリーズとの試合で、ウェインライトは7イニングを87球で終わらせた。8イニング目はわずか7球しか投げずに、9イニング目のマウンドへ向かうことができた。筆者はシルト監督に尋ねたことがある。なぜウェインライトはあれほどまでに効率が良いのか、なぜ監督はウェインライトに試合の最後まで任せようとするのかをである。

シルトは即座にその質問に答えた。

「ピッチングの基本だよ。ストライクを投げるということはね。ストライクを重ねて、四球を出さない。ウェインライトが長くマウンドに留まれる理由はそれだ。楽なアウトをたくさん取る。打者たちのスイングを見れば分かる。ウェインライトは打者のバランスを崩す名人なんだよ。カッターも良いし、ストレートも良い。落差のある変化球も良い。チェンジアップも混ぜているしね。それらの球種をすべてコントロールすることができるし、それをずっと続けることもできる。こういう投手は信頼できるし、それに経験も重ねていることは大きい」

ウェインライト自身はカーブに絶対の自信を持っていて、「12通り」の使い方があると言う。鋭く曲がるカーブ(回転率がメジャーリーグで上位14%に入る)を時速73マイル(約117キロ)で投げた後に、時速89マイル(約143キロ)のストレートは実際よりはるかに速く見える。そしてその143キロのストレートがストライクゾーンの中央に来ることはほとんどない。

ストレートの平均球速が時速90マイル(約145キロ)を下回るならば、ストライクゾーンのコーナーを突くことが大切だ。アダム・ウェインライトの哲学はそれだ。

先発投手の降板が早くなった理由の一つに、打者が3打席目に入る前に投手を交代する方が良いとするデータ解析結果がある。一般的なデータでは、1試合の中で同じ投手と3打席目以上になると打者が有利になるのだ。そのことはしごく当然のように思える。打者の目は慣れてくるのだから。だが、ウェインライトのようなベテラン投手はそれさえも逆手にとって楽しむことができる。

「打者には苦手なコースや球種があるし、投手はそれを突くことができる。だから同じ投球パターンを何回も繰り返すこともある。そしてときには違う方法を取ることも必要になる。まさかやらないだろうと打者が思っていることを、あえてやってみることも戦術の1つだ。それが自分にとって苦手なことではない限りね。ピッチングはチェスのような頭脳戦なのさ。とくに先発投手はそうだ。本当に楽しいのは3打席目か4打席目だ。本当に頭脳を働かせないといけなくなるのはその頃だから。そんな醍醐味を楽しむことができる機会をいつでも得たいと思っている」とウェインライトは語った。

カージナルズはウェインライトが今シーズン残りにあるはずの20回程度の先発登板チャンスでそれをやってくれることを望んでいる。そして10月のポストシーズンにおいても。さらに2022年シーズンも? それについて話すにはまだ時期が早過ぎるかもしれないが。

当のウェインライトはこう話す。

「期待されている以上のことを成し遂げるのはすごく楽しいと思うよ。何年か前に僕はもう終わったと思った人もたくさんいるだろう。今でも僕が試合で投げるたびに、9イニングを投げ切るには僕はトシを取り過ぎていると考える人もたくさんいるだろう。だから楽しいのさ」

(翻訳:角谷剛)

▶プロ野球を観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう

最新ニュース

ドジャース-筒香嘉智
【MiLB】ドジャース3A・筒香は3三振、チームは3本塁打で大勝
【MiLB】ドジャース3A・筒香は3三振、チームは3本塁打で大勝
エンゼルス-大谷翔平-ohtani
【MLB】エンゼルス大谷は4打数ノーヒットで2試合快音なし
【MLB】エンゼルス大谷は4打数ノーヒットで2試合快音なし
ボットー、スプリンガー
【MLB】週間MVPはアがスプリンガー、ナはボットーが受賞
【MLB】週間MVPはアがスプリンガー、ナはボットーが受賞
大谷翔平、ボットー
【MLB】大谷が2ケ月連続で月間MVPを受賞、ナはボットーが初受賞
【MLB】大谷が2ケ月連続で月間MVPを受賞、ナはボットーが初受賞
ドジャース-筒香
【MiLB】ドジャース3A・筒香は2安打1打点2四球3得点の活躍!チームも大勝
【MiLB】ドジャース3A・筒香は2安打1打点2四球3得点の活躍!チームも大勝